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SARA さら【登録タグ:FENCE OF DEFENSE アニメ シティーハンター2 曲 曲さ 曲さら 西村麻聡】 曲情報 作詞:FENCE OF DEFENSE 作曲:西村麻聡? 編曲:FENCE OF DEFENSE 唄:FENCE OF DEFENSE ジャンル・作品:アニメ シティーハンター2 カラオケ動画情報 ボーカルカットワイプあり オンボーカルワイプあり コメント 名前 コメント
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更紗のページ sarasaのページ WS対応表 区分 WS名 属性ゴルゲット・ベルト 連携L1 連携L2 連携L3 備考 片手剣 レクイエスカット ソイル(土)・シャドウ(闇) 片手剣 シャンデュシニュ ライト(光)・スノー(氷)・アクア(水) 片手剣 ナイツオブラウンド ライト(光)・フレイム(火)・アクア(水) 片手剣 ロイエ ライト(光)・フレイム(火)・アクア(水) 片手剣 ローズレーファタール ブリーズ(風)・サンダー(雷)・スノー(氷)・アクア(水) 片手剣 エクスピアシオン ソイル(土)・スノー(氷)・アクア(水) 片手剣 ウリエルブレード ライト(光)・ブリーズ(風)・サンダー(雷) シャンデュシニュ(光) ヴァレンラール、グリフィンの爪 片手剣 グローリースラッシュ ライト(光)・フレイム(火) レクスタリオニス 片手剣 サベッジブレード ブリーズ(風)・サンダー(雷)・ソイル(土) 片手剣 スウィフトブレード シャドウ(闇)・ソイル(土) 片手剣 ボーパルブレード サンダー(雷)・ソイル(土) 片手剣 ロイヤルセイバー トリオン 片手剣 バーサクルーフ フォルカー 両手剣 レゾリューション ソイル(土)・サンダー(雷)・ブリーズ(風) 両手剣 トアクリーバー ライト(光)・スノー(氷)・アクア・(水) 両手剣 スカージ ライト(光)・フレイム(火) 両手剣 ヘラクレススラッシュ ブリーズ(風)・サンダー(雷)・スノー(氷) 両手剣 グラウンドストライク ブリーズ(風)・サンダー(雷)・スノー(氷)・アクア(水) 両手剣 スピンスラッシュ ブリーズ(風)・サンダー(雷) 両手剣 アビッサルストライク ザイド 短剣 キングコブラホールド ナナー・ミーゴ 短剣 グレープショット ライオン 短剣 ウォークザープランク ライオン 短剣 パウダーケッグ ライオン 短剣 パイレーツパメル ライオン 両手刀 天つ水影流・鳥舞 テンゼン 両手刀 天つ水影流・風切 テンゼン 両手刀 天つ水影流・雪嵐 テンゼン 両手刀 天つ水影流・月朧 テンゼン 両手刀 天つ水影流・花軍 テンゼン 両手刀 天つ水影流奥儀・月影 テンゼン 片手棍 スカウリングバブル ㍉・アリアポー 片手棍 ピースブレイカー ナジャ ※覚えられないし、属性側基準だと覚えられんし、よく使うやつメモ。よく使わないのも持ってないのも一応に。グラディエイター60制限とかで使うと思うものも 連携は、次に撃つWSで、何になるか
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攻略チャート Part1 プロローグ~最初の洞窟までプロローグ 最初の町 最初の洞窟 攻略チャート Part1 プロローグ~最初の洞窟まで プロローグ することを記述 最初の町 することを記述 注意したほうがいいことなどは この形で書くと目を引きます 入手アイテム 場所 あいてむ1 宝箱 あいてむ2×2 宝箱(隠し) 最初の洞窟 することを記述 強調したい場合に下線や太字にする。 両方も可能 BOSS ??? 名称 HP 備考 洞窟の主 400 最初のボス。回復を忘れなければ大丈夫 詳細はこちら 入手アイテム 場所 あいてむ1 宝箱 あいてむ2×2 宝箱(隠し) あいてむ3 ボスドロップ Part2へ
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The First Signature ◆Wv2FAxNIf. 東京という舞台の中心部にて、婁震戒が目覚めて最初に行ったのが虐殺だった。 手にした妖刀・七殺天凌の乾きを満たすために、通りかかった者を何人も、何人も、老若男女の区別なく斬り刻んだ。 白昼堂々と行われた殺人であったが、他の通行人は無表情で通り過ぎて行く。 黒衣を纏った仮面の男もまた表情を変えることなく、犠牲者を増やし続けた。 そして永遠に続くかに見えたその行為が、不意に止まる。 「喰い応えは如何でしたか、媛」 婁は唇も舌も動かしていない。 しかし彼の思念は、愛し人に確かに届いていた。 『ならんな、腹の足しにもならん。 外見こそ人の姿を模しておるが、魂も魄も宿ってはおらぬわ』 とろけるような艶然とした声が婁の脳を揺らす。 声の主は、刀。 男と妖刀は、こうして念ずることで互いに会話を成立させているのだ。 「〈喰らい姫〉が言った通り、夢……ということでしょうな」 『うむ。我らと同じ立場にある十九人を除けば、紛い物の木偶に過ぎんようだ』 婁は足下の死体に見向きもしなかった。 七殺天凌の欲求を満たせなかった者たちには、既に興味を失っている。 「媛にふさわしい供物を用意する前に、少々お時間を頂戴します」 「許す。代わりに、存分にわらわを満たすがよい」 「ええ、必ずや……」 魂を食らうこの剣を悦ばせること、それだけが婁の目的なのだ。 婁は血を滴らせた剣をうっとりと見つめ、その美しさに酔いしれた。 ▽ 微睡んだ意識を現実へ引き戻す、携帯への着信。 通話口から聞こえてくるのは、よく見知った男の狼狽した声。 手荒い目覚ましによって少年が意識を取り戻した場所は、都心部に位置するテレビ局だった。 彼にとって馴染みのある、少々騒がしい新人アナウンサーの姿は――ない。 そもそもテレビ局の名前も、彼が記憶していたものとは異なる。 ここはトウキョウ租界ではないのだと、彼はすぐに理解した。 電話先の男との会話で現状を把握しながら、寝起きの頭をはっきりさせていく。 そして少年――神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは行動を起こしたのだった。 『P4は二百メートル南の証券ビルへ』 『P1はポイントαで待機。異常があればすぐに報告せよ』 『P2、P3は同フロアにいる者たちを三階の副調整室へ誘導』 『P5とP6は正面玄関で待機しろ。不審者は排除していい』 ルルーシュが陣取ったのはテレビスタジオの副調整室、サブコントロールルームだった。 部屋の壁一面に並んだ多数のモニターには『駒』が撮影した映像が流れている。 ルルーシュはそれらに目を通しながら、同時に片手でパソコンのキーボードを叩く。 そしてもう一方の手には携帯電話を握り、先程とは別の相手と通話をしていた。 複数の物事を同時に押し進めていながらも疲労の様子はまるでなく、当然のようにこなしている。 「……品川なら、遠くはないな。 俺は九段下――トウキョウ租界で言えば、政庁があった辺りにいる。 ここを拠点にするつもりだ」 電話の向こうには同い年の少年、枢木スザクがいる。 お互いの状況を伝え合いつつ、キーボードを叩く指はよどみなく動く。 既に百人を超える手駒を抱えているが、彼らに逐一指示を出すことなど、ルルーシュにとっては片手間で充分な作業だった。 そうした並列思考は元々得意だったが、ここ一年でより手慣れたものになっている。 そして不意にノックの音が響き、ルルーシュはスザクとの会話を中断した。 「少し待ってくれ。用事ができた。 すぐに終わるから」 ノックの主に許可を出すとすぐに、スーツ姿の男女十人ばかりがルルーシュの前に横一列に並んだ。 P2、P3と呼んだ二人の駒に呼び出させた、このテレビ局の職員たちである。 だがその顔には一様に生気がなく、人形のように佇んでいる。 彼らの様子を一瞥すると、ルルーシュは両目のコンタクトを外した。 「よく来たな。 お前たちは今から……私の奴隷となれ!!」 誰も逆らえない王の力、ギアス。 使用にあたり制約はあるものの、強固な意志を持つ者でも抵抗は不可能。 兵も。武器も。かつて何も持たなかったルルーシュが手にした力である。 高校生を続けていたルルーシュが立ち上がるきっかけとなった能力であり、これによってこの地でも勢力を伸ばしていたのだ。 この儀式の中では人目をはばかる必要がないため、ギアスを得た当時よりも容易に事が進んでいる。 ルルーシュは駒の一人一人に携帯とカメラを持たせ、指示を出す。 彼らは言われるがまま、ルルーシュの護衛となる数人を残して退出した。 『彼らにもギアスは通じるんだね』 「ああ、普通の人間と条件は変わらない。 まずはこの方法で情報を集める予定だ。 お前もこの街について……それに残りの十六人についても調べておいてくれ」 モニターには次々と新しい映像が映し出される。 ルルーシュが知る日本――元エリア11とは似て非なるこの土地について、まずは知らなければならない。 その中で儀式の参加者を発見できれば、なお都合がいい。 それからスザクとは持ち物や周囲の状況、それにジェレミアの様子など、細々とした情報交換を行った。 他の参加者と出会っても可能な限り穏便に済ませることについても同意を得られた。 もっともルルーシュは、善意でその方針を決めたわけではない。 争い自体を避けようとしているスザクと行動理由まで同じかといえば、否。 単純に、もしここに集められた者たちが平和主義者ばかりであったとしたら、好戦的な態度は悪目立ちしてしまうからだ。 ルルーシュ、スザク、ジェレミアという三人だけで残りの十七人を相手にするような事態は避けねばならない。 そうした打算があったから、表面上の争いを回避したかったのだ。 そこまではスザクに説明しなかったが、スザクならこの思惑にも察しがついているという確信があった。 ゼロ・レクイエムに向けて――今まですれ違ってきた分だけ、既に言葉を尽くしている。 ここにきて、互いの性分が分からないわけがない。 一通りの話を終えて電話を切ろうとしたルルーシュが、はたと止まる。 そして少し声を落とし、スザクに一つ尋ねた。 「スザク。……あの仮面は持っているか?」 それだけで、スザクには何のことかすぐに伝わったらしい。 特に迷う様子もなく肯定された。 『さっき、ランスロットを起動できるか確認したんだ。 その時にコックピットで見つけた。 あれがどうかしたのかい?』 ルルーシュの視線が鋭くなる。 大破したはずのランスロット、それにジェレミアのサザーランド・ジークが復元されていたことも疑問ではある。 しかし敢えてあの仮面を、スザクの持ち物としてランスロットに積んだのは誰なのか。 何のために。 それはこの儀式の目的そのものと関係があるはずだと、ルルーシュには思えたのだ。 〈赤の竜〉と〈喰らい姫〉の発言を一つずつ吟味する。 参加者の選定条件は? 〈竜〉とは? 〈竜殺し〉とは? 彼らが口にしたキーワードから、仮面を置いた理由を仮定する。 そのパターンの数は四桁に及び、その中から更に可能性の高いものを精査していく。 だがその内容は、スザクには明かさない。 全てが憶測の域を出ない今は、口にするべきではない。 沈黙した数秒の間に思い当たった事柄の全てを、ルルーシュは自分の内に秘めることにした。 「……いや、少し気になっただけだ」 『そうか……分かった』 「情報が集まったら必ず話す」 『そうしてもらえると助かるよ。 じゃあ、また後で』 スザクもルルーシュの歯切れの悪さに気づいているようだったが、それ以上詮索してくることはなかった。 今度こそ電話を切り、やはりキーボードを叩く手は止めないままルルーシュは考える。 「日本」を称える言葉だけを口にし続ける、人形じみた人々。 ルルーシュはまず彼らが麻薬で洗脳されている可能性を考えたが、どうやらそうではないようだった。 ギアスをかけて尋問を行ったが、言葉の受け応えこそできるものの、そもそもここに至る以前の記憶を持ち合わせていなかった。 こうした検証もあって、〈喰らい姫〉の『夢』という単語は現実味を増していく。 加えて、彼女の言葉を戯れ言と切り捨てるには〈赤の竜〉の存在が生々しすぎた。 「夢に……〈竜殺し〉」 ジェレミアとスザク、それに駒たちから集めた情報だけではまだ足りない。 ジェレミアに答えた通り〈竜〉に興味はないが、情報は常に必要だ。 そのためにルルーシュは手を広げ、会場全域に“目”を用意する。 他に同じことを考えている者がいるとは、知るよしもなかった。 ▽ 参加者を斬る。 そう目標を定めた婁が続いて取った行動は、またしても虐殺だった。 ただし今度は剣を抜くことなく、付近にいた人間の心臓を手刀で貫く。 暗殺者としてその道に名をしらしめた婁にとって、素手をもって人を絶命させることなど児戯に等しい。 喉を潰し、頭部を砕き、淡々と死体を重ねていく。 七殺天凌による惨殺死体の上に、更に死体が積み上がる。 『本当に……おぬしはわらわを退屈させんのう』 そして線香の火が燃え尽きる程度の時が経った頃、影が蠢いた。 ▽ 異変の予兆には気づいていた。 テレビ局のほど近くで人々を鏖殺する仮面の男の姿を、ルルーシュの駒が早々に捉えていたのだ。 ルルーシュは距離を取って撮影するよう指示を出したが、送られてくる映像が途絶えたのはそれから間もなくのことだった。 黒衣の男の観察を続けるべく、ルルーシュは別の地点に向かわせていた駒を代わりに送り込んだ。 誰がルルーシュを責められるだろうか。 誰が、この後に起こる出来事を想定できただろうか。 「この時点で逃げていれば」などと、言えるはずがない。 死体が起き上がり、群れを成し、人々を襲う――そんな事態を、警戒できるはずがない。 ▽ 死体が一つ、また一つと起き上がる。 ニル・カムイという限られた土地の中でのみ発生する現象、『還り人』。 本来は百人に一人も起こらない稀な事象であるが、強力な還り人である婁の手に掛かればその限りではない。 妖刀ではなく婁に直接殺された者たちのうちの大半が還り人となり、周囲にいる生存者に襲いかかる。 そして彼らに殺された者たちの一部が、同じく還り人として起き上がるのだ。 還り人たちは鼠算に近い勢いでその数を増やし、進軍を始めた。 街の中心から放射状に、会場の全てを覆い尽くさんとしている。 『十九人の内に、有象無象に殺されるような者はそうおらんて。 この余興、楽しませてもらおうぞ』 死体が死体を作る、死が街に蔓延する。 死の連鎖に、七殺天凌が愉悦の声を上げる。 その声を聞いた婁もまた、唇を三日月のように歪ませて静かに嗤った。 ▽ 「どうなっている……! P4、応答しろ!! P5はどうした!?」 ビルから送り出した者たちの通信が次々に途絶えていく。 彼らが最後に送ってきた映像の数々は、ルルーシュを打ちのめすに充分なものだった。 「何の冗談だ……これは……!」 趣味の悪いホラー映画にでも出てきそうな、ゾンビの群れ。 腹や胸に穴を空けた死体たちが、乱杭歯を剥き出しにして人々を襲っていた。 群れの勢いは凄まじく、その動きは「侵略」と呼ぶのがふさわしい。 これまでに集めた映像をパソコンから携帯に移し、ルルーシュは迅速に副調整室を放棄した。 決断は早かった。 逃走ルートは予め三桁を超える数を想定してある。 部屋には護衛も残しており、将が一人きりになるという愚も犯していない。 だがたった一つ――運が悪かった。 全ての起点、事態の元凶となった場所は、テレビ局に近すぎた。 「一階がやられた……エレベーターは使えない……!」 テレビ局内部の監視カメラがたった今、入り口が突破される瞬間を捉えていた。 防衛用に配置していた人員も、数の暴力の前には無力だったようだ。 やむなくルルーシュは副調整室から上の階へ向かうことを決めた。 逃げではなく、切り札に手を伸ばすために。 手元に置いておこうにも、そのサイズ故に最上階の大型の撮影スタジオにしか保管できなかった「それ」のために。 階段を目指して廊下を駆けるが、そこには既に下階からの亡者が群がっていた。 ルルーシュは護衛の駒たちを人垣にして群れを食い止め、同時にコンタクトを外す。 成功する確率は高くない。 だが成功すれば、切り札に頼ることなく形勢を逆転させられる。 「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……私に従え!!!」 彼らの落ち窪んだ眼窩に向けて放つ絶対の命令。 だが彼らは止まることなくルルーシュの駒に襲いかかった。 賭けに敗北したルルーシュは転身し、異なるルートで上を目指す。 残る経路は、建物の外側に設置された非常階段のみだった。 息せき切って走りながら、ルルーシュは携帯電話を手に取る。 連絡を取る相手は枢木スザク。 彼がここまで来るには時間がかかるとはいえ、現状を伝える必要がある。 通話画面を呼び出しながら、非常階段と繋がる扉を開け放つ。 そして外気に触れた瞬間――待ち受けていた死体が掴みかかってきた。 まるで、ルルーシュがそこから出てくることを知っていたかのように。 ルルーシュは反射的に死体の腕を振り払ったが、その拍子に手から携帯電話が零れ落ちた。 「しまっ――」 通話画面を開いたまま。 階段の床に数度ぶつかった後、柵の隙間から落下していった。 非常階段にいたのは襲ってきた一体のみではなく、既に死体の群れで溢れ返っていた。 背後の廊下からも足音が迫ってきている。 銃の一つも持たず、ギアスは通用しない、言葉も通じない。 ルルーシュはほぼ無抵抗のまま手足を掴まれ、床に押さえつけられた。 ▽ 婁が還り人の軍勢に最初に命じたのは、破壊だった。 人々を襲って勢力を伸ばしつつ、建造物に火を放って参加者たちの逃げ場を奪えと。 垂らした油に火を点けたかのように、街に凄まじい速度で死が蔓延していく光景は、魔剣を大いに悦ばせたのだった。 婁震戒は仮面の下で嗤う。 彼の目に映る景色は、目の前に広がるそれだけに留まらない。 彼は従えた還り人の軍勢、その全てと視界を共有しているのだ。 軍勢が拡大を続ければ、やがて婁は会場全域に“目”を持つこととなる。 婁はそうとは気付かないまま、ルルーシュの計画を上書きしたのであった。 その中で婁は、ある建物に関心を寄せた。 還り人の群れの侵入を阻もうとする警備員を見つけたのがきっかけだった。 他の人形たちと違ってまるで意思を持つかのように建物を守る者たちに、違和感を覚えたのだ。 試すように還り人の群れを内部へ踏み込ませた結果、望んだ通りの答えを得た。 否――望んだ以上である。 「どうやら、媛のご期待に添う結果となりそうです」 『ほう?』 「〈喰らい姫〉に認められただけのことはある、ということでしょうな」 婁は移動を始めた。 七殺天凌に、極上の血を捧げるために。 「妙な能力を持つ者がいるようです。 それに――」 ▽ 「くそっ、こんなところで……!」 打開策をいくら考えようと、もはや身動きすらできない。 頬で鉄製の床の冷たい感触を味わいながら、ルルーシュはただ最愛の妹を思い出していた。 ルルーシュの全ての行動の原動力となっていた、今では決別してしまった妹。 もうまともに会話することさえ叶わない仲となったが、その程度のことで愛情が薄れるはずもなく。 どんなに離れていても、想うのは彼女一人。 「ナナリィイイイイイ!!!!」 ただしその叫びに応えたのは、彼女に全く関わりのない人物であった。 「よぉ、にーさん」 あまりに気さくな、そして気安い挨拶に顔を上げたルルーシュは、咄嗟に言葉が出なかった。 淡い光を帯びたその青年は階段の手すりの上に、しゃがみ込むように座っていた。 風が吹いただけで落ちるのではないかというほど不安定な足場のはずなのに、飄々とした表情は崩れない。 悠々と煙草をふかせている彼が、どのようにして地上から離れたこの階に現れたのかも分からない。 ルルーシュは自分の置かれた状況すら忘れて、その青年に目を奪われていた。 「俺っちは開国武成王黄飛虎の次男、黄天化ってんだ。 助けはいるかい?」 少年のようにイタズラっぽく笑う天化からの、願ってもない提案。 しかし彼を――ルルーシュは信じなかった。 暗殺に怯え、虐げられ、利用し利用され、そんな半生を送ってきたルルーシュに信じられるはずがない。 そしてルルーシュは「他者からの施し」というものを、何よりも嫌っているのだ。 故にルルーシュはコンタクトを外したまま、天化に向けて声を張り上げた。 「俺を、……助けろ!!!」 ▽ 婁震戒の行動は素早かった。 街を闊歩する還り人の群れの間を縫うように進み、「それ」を拾い上げる。 「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに、枢木スザク……」 婁は「それ」が何なのかを知らない。 ただ、街を行く者たちが一様にそれを所持していたことは知っている。 『街の連中の様子を見るに、恐らく我らが用いる符に代わるものだろうさ。 黄爛の道宝とも、ドナティアの現象魔術とも、根本的に異なるようだがの』 「ふむ……どうやら壊れているようですが、まだ使い道はあるかも知れませんな」 高所からの落下のためか、振っても押しても画面は変わらず「枢木スザク」の名を表示したままだった。 婁はそのままそれを懐に押し込み、視線を上へと向ける。 ▽ 「……分かった。助けるさ」 虚ろな表情にのまま天化は剣を振るった。 剣と呼ぶには奇妙な、光る棒状の武器だ。 天化の剣の腕前の成せる業なのか、その剣の切れ味に依るものなのか。 死体の群れは豆腐でも斬るように容易に刻まれ、崩れ落ちた。 五人でも、十人でも、束になって襲いかかろうが結果は変わらない。 非常階段に密集していた死体は、瞬く間に一蹴されたのだった。 「…………ん? あれ、俺っち何かしたか?」 天化がはっとして、周囲と手元を見比べている。 ギアスによって操られた者はその前後の記憶を失う。 よって、天化は自分の行動を覚えていないのだ。 ギアスを掛けられた者のこうした様子は、ルルーシュにとっては見慣れたものである。 「天化といったな。 その……助かった」 「あー、よく分かんねぇけど。 まー無事でよかったさ」 天化はまだ納得がいっていないようだったが、やれやれと肩を回して一息ついていた。 そんな天化の姿を、ルルーシュは細かく観察する。 「どうやってここまで来たんだ?」 「ああ、この下で気持ち悪ぃ連中を相手にしてたら、何か落ちてきたさ。 そんで上に誰かいるんじゃねぇかって、あれで上がってきたってわけさ。 後で回収しなきゃいけねぇな」 天化が指したのは、向かいの建物の壁だった。 見ると小さな杭のようなものが、縦に三メートルほどの間隔で数カ所に刺さっている。 鑚心釘という武器だと天化は説明したが、どうやらそれを蹴って足場にしたらしい。 携帯が落下してから天化が到着するまでの時間はほんの数秒。 人間業とは思えないその身体能力はスザクやジェレミアにも並ぶと、ルルーシュは推測した。 「とにかく、一旦ここを離れるさ」 「待て」 「何さ、ここにいたらまた襲われるってのに」 天化についてもう一点、確認しておくことがある。 この先も、この男を利用していくために。 「俺は上の階に用があるんだ。 俺を『助けてくれないか』」 ギアスは一人に対して一度しか使えない。 その一度を、咄嗟のことだったとはいえ曖昧な命令で使ってしまった。 「助けろ」というギアスが今回一度きりのものか、今後も作用するのか、試す必要がある。 「上? ……しょうがねぇな。 あーたは弱ぇみたいだし、放っとくのも気分が悪いさ」 「…………」 天化の反応は、ギアスによるものには見えなかった。 ギアスの効果が切れているのか。 それとも天化にとって抵抗のない願いだった故に発動しなかっただけなのか、判断がつかない。 だが一緒に行動していれば確認する機会はいくらでもあると、ここでの言及は避けることにした。 幸い、天化はお人好しと呼べる人種らしい。 仮にギアスが切れていたとしても、打てる手はいくらでもある。 初めの計画こそ潰されたが、天化という都合のいい戦力を得られたアドバンテージは大きい。 新たな駒を手にして、ルルーシュは新たな策を練り始めた。 【一日目昼/九段下 テレビ局】 【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】 [所持品]なし [状態]健康 [その他] 携帯電話を紛失 【黄天化@封神演義】 [所持品]莫邪の宝剣、鑚心釘 [状態]健康 [その他] ルルーシュの「俺を助けろ」ギアス使用済み(効果が継続しているかは不明) ▽ 還り人を介して、婁震戒は仮面の下の双眸で全てを見ていた。 ルルーシュの言動も、動作も。 天化の剣技も。 『トリガーは、目か。 魔眼の類は文献や伝承には聞くが、それを味わえる日がくるとはの』 「ええ、必ずや。 媛に献上してご覧にいれましょう」 労なく発見した最初の供物を、みすみす逃すはずがない。 愛する魔剣が鮮血に染まる様を思い描きながら、婁は地面を蹴った。 【一日目昼/九段下 テレビ局】 【婁震戒@レッドドラゴン】 [所持品]七殺天凌、ルルーシュの携帯電話(故障中) [状態]健康(還り人) [その他] 七殺天凌は〈竜殺し〉 還り人たちを通して会場全域の情報を得る。 Back 混沌戦争 Next 持つ者と持たざる者 001 還り人の都 婁震戒 009 天凌府君、宣戦布告す GAME START ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア 黄天化
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Sara(ザーラ) 孤児の魔女、その性質は切望 条理を外れた願いにより、正規の手段でなく愛し愛されることの喜びを知った彼女はより多くの愛を求めずにはいられなくなった 結界にたまに訪れる獲物に対しても最大限の愛を向け、自らの愛の量を増やそうする 彼女が唯一つだけの愛を育むことによってのみ生まれる『真実の愛』に気付くときは来るのだろうか? 魔法少女時代 雨宮 天音(あまみや あまね)
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武将名 区分 所属 大井の方 武田軍 大久保長安 武田軍 湖衣姫 武田軍 高坂昌信 武田軍 高坂昌信(紅葉) 紅葉 武田軍 真田幸村 武田軍 真田幸村(黄金) 黄金 武田軍 真田幸村(乙女) 乙女 武田軍 真田幸村(虎) その他(1文字) 武田軍 真田幸村(飛) その他(1文字) 武田軍 真田幸村(烈火) その他(2文字) 武田軍 真田幸村[キラ] キラ 武田軍 三条の方 武田軍 三条の方(紅葉) 紅葉 武田軍 サンタ乙女信玄 サンタ 武田軍 朱雀幸村 武田軍 朱雀幸村(乙女) 乙女 武田軍 諏訪御料人 武田軍 諏訪御料人(紅葉) 紅葉 武田軍 諏訪御料人(湯) 湯 武田軍 武田勝頼 武田軍 武田菊 武田軍 武田菊(戦姫) 戦姫 武田軍 武田信玄 武田軍 武田信玄(燻) その他(1文字) 武田軍 武田信玄(乙女) 乙女 武田軍 武田信玄(将) その他(1文字) 武田軍 武田信玄(紅葉) 紅葉 武田軍 武田信玄[キラ] キラ 武田軍 武田信繁 武田軍 武田信繁(紅葉) 紅葉 武田軍 武田真理 武田軍 武田真理(戦姫) 戦姫 武田軍 内籐昌豊 武田軍 馬場信春 武田軍 山県昌景 武田軍 山本勘助 武田軍 烈鬼幸村 鬼 武田軍
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戦国BASARAX 毛利元就攻略wiki INFORMATION ここは戦国BASARAXのキャラクター、毛利元就の攻略wikiです。 どなたでも編集することができます。 攻略スレ 毛利元就 編集方法を知りたい方は、まずこちらをご覧下さい。 @wikiの基本操作
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汝は竜殺しなりや? ◆Wv2FAxNIf. 人々がせわしなく行き来する大通りの、遙か上。 そびえ立つビルの屋上から一人の少女と一体の魔物が、感情のこもらない目で地上を見下ろしていた。 少女の名をエィハという。 肋骨が浮くほど痩せた体に纏うのは、粗末な布きれと最低限の防具のみ。 年齢は十に届くか届かないかという幼い子どもでありながら、目元の鋭さは獲物を狙う獣に近い。 頭頂部を挟んで生えた一対の尖った耳は、彼女の血に魔物の因子が混じっていることを示していた。 「……見つけたわ」 エィハは傍らにいた大型の魔物の背に跨る。 全体は犬に近く、しかし両腕には蝙蝠の羽根のような皮膜がある、巨大な白い魔物だ。 潰れた目には包帯が巻かれ、エィハが選んだ小さな花が挿してある。 エィハの背丈の数倍もの体躯を持つこの魔物を、エィハはヴァルと呼んでいた。 この「ヴァル」と共にあることこそが、エィハの最大の特徴だった。 決して、エィハがこの獣を使役しているのではない。 エィハがこの獣に従っているのでもない。 彼らはただ“つながっている”。 「まずは――……」 ヴァルが翼をはばたかせ、標的に向かって一気に高度を下げる。 目が潰れていようと、魔物にとってそんなことはさしたる問題ではない。 そしてヴァルは巨体に見合わない俊敏さで空を切り、牙を剥いた。 幼い少女は必死に考えていた。 順番を。 殺す順番を。 「……まずは、あなたから」 そうしてエィハとヴァルは、一人の少年に襲いかかった。 ▽ 枢木スザクが目覚めた場所は地下駐車場。 騎士服の上に紺と紅の二色の装飾過多なマントという、目立つ出で立ちだった。 身辺や周囲の確認をした後は、階段で上階へ。 眼下の街を眺めながら、スザクは〈竜〉と〈喰らい姫〉という少女の言葉を反芻する。 状況を飲み込むまでに、そう時間はかからなかった。 耳慣れない単語をいくつも並べられたものの、最初に〈竜〉の存在を見てしまった以上は信じる他になかった。 それに元よりギアスという超常の能力に関わっていたのだから、多少の耐性はできている。 スザクは〈竜〉も、儀式も、殺し合いも、全て現実だと受け入れた。 儀式に巻き込まれた理由も、スザクはうっすらと察していた。 ここに連れてこられたのは、数日後のゼロ・レクイエムという計画に向けた準備の最中のことだった。 そして名簿には計画の中核となる二人と協力者一人、そして計画と激しく衝突することになったもう一人の名前がある。 この時期だからこそ、この四人だからこそ巻き込まれたのだと納得がいった。 しかし納得したからといって、儀式に協力する気になったわけではない。 世界の流れを決める力が得られると言われても、それが欲しいとは思えなかった。 ゼロ・レクイエムは人々にきっかけを与えるものであって、その後の世界を決めるのは人々自身だ。 思い通りにならない世界に悲しみや憤りを覚えることはあっても、個人が世界を思い通りにできていいはずがない。 〈竜〉に縋れば、人の意志を踏みにじってきたギアスと同じになってしまう。 だから〈竜〉を殺す気はない。 かといって世界を変えるほどの力を、特定の個人に渡したくもない。 ルルーシュたちとともに生還することが最優先だが、可能なら儀式そのものを壊しておくべきだ。 そこまで考えた上で、スザクは電話をしていた。 「ルルーシュ、無事かい? …………うん。 さっきは通話中だったから、そうだと思った」 携帯電話が手元にあるとなれば、当然真っ先に使う。 この状況で本当に携帯電話が使えるのか半信半疑だったが、幸い電波は問題なく届くようだ。 電話の相手は神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 友人であり、今のスザクの主にあたる相手でもある。 ひとまず互いの安全が確認できて、スザクは胸を撫で下ろす。 その感情は、決して騎士としてのものではない。 親友だったから、という感傷によるものでもない。 ゼロ・レクイエムのためには二人の生存が必須だという、打算に近い。 「僕は品川にいるけどどうする? ……ああ、それなら僕がそっちに向かった方がいいか」 スザクは与えられた地図と駐車場内にあった路線図とを見比べながら電話しているが、何度も首を傾げる。 ここはスザクが知るトウキョウ租界とは様子が違うようだった。 地名、それに路線の名前が少々異なるのだ。 ルルーシュもそれに気づいているようで、探るようにして待ち合わせ場所を決める。 ルルーシュは現在、九段下――トウキョウ租界でいうところの政庁付近にいるという。 環状線の中心部であり、ルルーシュはそこを拠点にするつもりらしい。 「分かった、少しこの辺りの様子を見てから向かうよ。 近くまで行ったらまた連絡するから、君も何かあったらすぐに電話してくれ」 その後いくつか確認を終えると、スザクは電話を切る。 それから別の番号を呼び出そうとしたが、その前に電話がかかってきた。 ちょうど、連絡しようとしていた相手からだった。 「ジェレミア卿ですか。 ……ええ、ルルーシュから聞きました」 携帯電話の向こう側にいる相手はジェレミア・ゴットバルト。 ゼロ・レクイエムの協力者の一人であり、スザクと違って純粋な忠誠心でルルーシュに従う人物だ。 スザクに先じてルルーシュと連絡を取っていたことからも、彼の性質が窺える。 「九段下ですよね。 ……何か音がしますけど……いえ、それならいいんです」 電話越しに金属音が聞こえるが、ジェレミア本人が問題ないというのなら問題ないのだろう。 こんな状況ではあるが、彼がそうそう殺されるような人物でないことは分かっている。 「……ええ。 全ては、ゼロ・レクイエムのために」 最低限の連絡を終え、電話を切る。 本当はもう一人の知り合い――紅月カレンにも電話したかったのだが、スザクは彼女の番号を知らなかった。 同じ生徒会にいた頃、スザクは携帯電話を持っていなかったからだ。 しかし知っていたところで、着信拒否になっていただろう。 自分と彼女の間にある断絶は理解していた。 代わりに名簿に記載されていない上司にかけてみたが、こちらは電波が届かなかった。 あの〈喰らい姫〉という少女は、会場内はともかく外界と接触を取らせるつもりはないらしい。 一通り携帯でできることを試した後、スザクは駐車場の外へ向かう。 外に出てみて最初にこの「東京」に抱くのは、違和感。 言いようのない気持ち悪さだった。 スザクは東京を――トウキョウ租界を知っている。 しかしここは同じ名前の土地で似た雰囲気を纏っているだけで、別物だ。 中途半端に似ているだけに気味が悪い。 異なる点はいくつもある。 そのうちの一つが、人々がスザクに対し見向きもしないことだ。 元より悪い形で有名になってしまっていたスザクだが、現在は悪逆皇帝の騎士として戦死したことになっている。 人々の憎悪を背負って死んだ騎士が化けて出たというのに、注目されるどころか誰も気づかないのは不自然だ。 そして何より「租界が存在している」。 それだけで、ここがスザクの知る土地とは全く違う場所なのだと分かった。 何故ならほんの数ヶ月前、他でもないスザクが、破壊兵器フレイヤによって租界の半径数キロを消し飛ばしたからだ。 巨大なクレーターと化して死んだ土地が、そう簡単に修復されるはずがない。 だからここは、日本ではない。 あの〈喰らい姫〉が言ったように本当に「夢」なのかも知れないと、スザクは自嘲気味に笑った。 そんな思考をしている最中に、スザクは意識を失いかけた。 「……ッ!!」 無意識のまま地面を蹴り、転がるようにしてその場を離れる。 コンマ数秒の差でスザクが立っていた場所を白い巨体が横切り、コンクリートに爪痕を残した。 「生きろ」というギアスをかけられたスザクはそれを逆手に取り、優れた危機察知能力として活用している。 その恩恵がなければ、今の一撃は避けられなかったかも知れない。 そうしてスザクの横を通り過ぎたそれは空中で方向転換し、スザクの方へ向いた。 「女の子……!?」 そこにいたのは翼の生えた白い獣と、それに乗った褐色の肌の少女だった。 少女が獣に囚われているのか、獣が少女を守っているのか――いくつか可能性を考えるが、恐らくどれも違う。 少女は明確な殺意を向けてきている。 白い獣から向けられている感情と、全く同じものだ。 「次は外さないわ」 「待て!!」 抑揚のない声で告げた少女に、スザクは会話を試みる。 無視されるなら応戦する構えだったが、少女は一旦動きを止めた。 「君も儀式に巻き込まれたのか?」 「そう」 「君は〈竜〉を殺したいのか?」 「違う」 「なら、どうして」 「説明する必要があるのかしら」 短い言葉の応酬を終えると、白い獣が再び牙を剥き出しにした。 スザクはもう一度、今度は交渉を試みる。 「自分は、君たちを殲滅するだけの戦力を有している。 これ以上続けるつもりなら、自分はこれを行使する!」 無表情だった少女が、僅かに顔をしかめる。 そして値踏みするようにスザクの全身を眺めた。 「……あなたがヴァルより強いとは思えないわ」 「本当に、そう思うかい?」 スザクは手の中にある「鍵」を握り締める。 できればそれを使わずに済むようにと、慎重に言葉を選ぶ。 「仮に君たちが勝つとしても、消耗するのは本意ではないはずだ。 それに、僕も〈竜〉を殺す気はない。 話し合いの余地はあるんじゃないか?」 少女は考える素振りを見せていた。 白い獣と一緒にコトリと首を傾げ、スザクに問いを投げかける。 「……あなたは〈竜〉に興味がないのかしら」 「ないよ。 できれば誰とも戦いたくない。 知り合いと一緒にここを出られればそれでいいんだ」 少女は真剣な表情で熟考を重ねている様子だった。 やがて白い獣が力を抜き、羽ばたくのをやめて着地した。 そして獣から降りた少女を見て、スザクは目を剥く。 一瞬見間違えたかと思ったが――獣と少女の間に、一本の蔦があった。 それは少女の尾てい骨付近から伸びて、獣の背中に直接繋がっている。 「……いいわ。信用する。 信用できなくなったら殺すわ」 この後、スザクは聞かされることになる。 彼らは“つながれもの”――視界を、魔力を、命を共有する者たち。 「分かった、それでいいよ」 少女の視線は変わらず、友好的なものにはほど遠い。 しかし多少ではあるが殺意は薄らいだようだった。 少女を相手に切り札を出さずに済んだことで、スザクは安堵の息をもらした。 ▽ 「注文は決まった?」 「少し待って」 エィハが見つめているのは、スープバーの外にあるフードメニューだった。 彼女は真剣な表情でそれを見つめ、色とりどりの写真とにらめっこをしている。 「…………」 さらに二十秒ほど待ってみるが、決まらない。 これ以上店の前で棒立ちになるわけにはいかないので、スザクは口出しすることにした。 「僕の分も選んでいいよ。 後で少しあげるから」 「いいの?」 「うん」 相変わらず表情の変化は乏しいが、少しだけ声のトーンが明るくなった気がした。 戦いさえ絡まなければ、同年代の少女とそう変わらないのかも知れない。 無事に注文を終えて、スザクとエィハはカップを持って席につく。 ヴァルの巨体では店内に入れなかったため、テラス席を選んだ。 ヴァルは「おいしいものなら何でも食べる」とのことだったのでカレーを注文したが、気に入ってもらえたように見える。 「それ……外れないんだね」 スザクは彼らを繋ぐ蔦に視線を遣る。 簡単に説明を受けたものの、「魔力の蔦で繋がっている」と言われてもピンとはこなかった。 「私はヴァルで、ヴァルは私。 そういうものだから。 ……あなたは、本当につながれものを知らないのね」 「魔物っていうのを見るのだって初めてだよ。 君が住んでいたところでは有名だったのかい?」 「珍しくはなかったわ。 いい顔はされなかったけど」 冷めた口調で言いながら、エィハがカップを手に取る。 彼女が真っ先に注文したトマトシチューだ。 トマトの香りが湯気とともにスザクの席まで届き、思わず喉を鳴らしそうになった。 とろみのあるシチューをスプーンで掬い上げたエィハは、それを口に含んだ途端に目を丸くする。 「……おいしい」 「そう、よかった」 エィハに触発されて、スザクも自分のカップに手を伸ばした。 エィハが悩んだ末に選んだのは、牛すじ肉と野菜のスープ。 シチューと違って透明度の高いスープだが、口にした途端に濃厚な牛肉の味が口いっぱいに広がった。 薄味ではない、しかしさっぱりとしていて飲みやすい。 大根を中心とした具にも肉の味が染み込んでおり、口の中で野菜の味と絡み合う。 主役である牛肉は噛みごたえを残しつつも柔らかく、旨みが凝縮されている。 思わずもう一口、というところで、スザクはカップをエィハに差し出した。 「僕の分もどう?」 「もらうわ」 店に入った目的として、座って話せる場所が欲しかったというのはもちろんある。 しかしそれ以上に、スザクはエィハの痩せた体を見て、思わず何かしてやりたくなってしまったのだ。 エィハがスープを希望したのでこの店になったが、もっと腹持ちのいいものを食べさせてやりたかったぐらいだった。 一時期スザクの同僚だった少女に雰囲気が似ていたことも、情が湧いてしまった原因の一端だろう。 同情を喜ぶような少女ではない。 それでも夢中でスープを口に運ぶ彼女の姿を見ると、少しほっとした気持ちになる。 ――この後、彼女を殺すことになったとしても。 酷い偽善だと、スザクは吐き出しそうになった溜息を飲み込んだ。 「あなたは、いい人なのね」 「……いい人じゃないよ。 これだって、ただのスープだし……」 先ほどまで殺気に満ちていたとは思えないほど、エィハの様子は丸くなっていた。 スープだけでここまで態度を変えられてしまうと、お節介ながら彼女の将来が心配になる。 「毒を盛られるとは思わなかった?」 「あなた、自分が飲んでからくれたでしょう」 「あ、そこは見てるんだ……」 エィハなりの判断基準によって「いい人」と評価されたようだが、調子を狂わされてしまう。 余計なことを、考えてしまう。 ――ルルーシュ、カレン、ジェレミア、そして自分の四人が生き残るなら、あと一つ席が残る。 もし殺し合うことになったとしても、彼女一人なら助けられるのではないか、と。 そんな甘い考えを、思い浮かべては打ち消した。 計画に支障をきたしかねない甘さは、捨てなければならない。 「あなたは戦わずに、知り合いと一緒にここを出られたらいい……と言っていたわね」 「ああ、うん」 「無理だと思うわ」 「えっ」 突然断言されて、スザクは驚きの声を上げる。 そんなスザクの反応を無視して、相変わらずエィハは淡々とした声で意見を述べた。 「私は以前〈喰らい姫〉に会って、〈竜〉の話を聞いた。 だから私は彼らがどんな存在か知ってる。 あなたがいい人だと思うから、忠告してるのよ」 エィハはパンを頬張った。 それからスープを口に含むと、また少し口元が緩んだ気がする。 そして彼女が咀嚼を終えたタイミングで、スザクは質問した。 「〈喰らい姫〉って何者なんだい?」 「〈赤の竜〉と縁が深い、巫女のようなものだと聞いたわ。 でも、例えば彼女を捜し出して説得したり、殺したり。 そういうことをしても、この儀式は止まらないと思うの」 「そうなの?」 儀式を止める方法として、真っ先に思い浮かぶのがそれだ。 元凶と思われる少女を止めれば終わるのではないかという考えを、確かに持っていた。 「本人が言っていたように、彼女はただの案内人よ。 『そういうもの』を『そういうもの』だと伝えるのが彼女の役目。 儀式といっても、彼女が執り行っているわけじゃなくて……多分『そういうもの』なのよ」 「随分、曖昧な言い方だね」 「話す相手と言葉は選ぶわ」 「なるほどね」 エィハの様子からは、既に自分の考えに確信を持っているように見える。 それでも曖昧な物言いになるのは、要はスザクには詳細を話せないということ。 彼女は「いい人」への最低限の忠告をしているのであって、それ以上の情報を渡すつもりはないのだ。 残念ではあったが、スープだけで完全に気を許されたわけではないと思うと逆に安心した。 「それに前に私が会った時は、彼女は消えたわ。 話が終わってすぐに」 「どこに?」 「行方知れずになった、という意味じゃないわ。 消えたの。 彼女も『夢』だったんだろうって、私と一緒にいた人は言っていたわ。 だから儀式の説明を終えた以上、彼女はもうどこにもいないんじゃないかしら」 今から〈喰らい姫〉を捜したとしても見つからない。 彼女は既に役目を終えているから。 そんな忠告を、エィハは続ける。 「だから〈竜〉と彼女が言っていた通り、生き残れるのは五人だけ。 戦うしかないし、殺すしかない。 そうしたらあなたはどうするの?」 パンの最後の一口を手にしたまま、エィハは問うた。 鋭い視線は「いい人」の反応を、一挙一投足を見逃すまいとしているようだった。 「僕と僕の知り合いには、やらなければならないことがある。 だから、どうしてもその必要があるなら。 僕には殺す覚悟がある」 「それならここで私も殺す?」 エィハが間髪入れずに問いかける。 既にパンを食べ終えて、スープも飲み干している。 エィハとヴァルの二方向から殺気が飛ばされて、いつ飛びかかられてもおかしくない状況だった。 しかしスザクの返答は変わらない。 「戦いたくないよ……今は。 君は無理だと言ったけど、僕はまだ諦めてないから。 襲われたら別だけどね」 そうしてスザクは逆にエィハに釘を刺し、目を細める。 殺気で怯むほど、平坦な人生は送っていない。 「…………そう。 それなら私も、今はあなたと戦わないわ」 「試したのかい?」 「あなたが戦いたくないだけの人なら、殺してたわ」 エィハはさらりとそう言ってのける。 そしてスザクがそれに反応しようとした時、携帯電話が鳴った。 「ごめん、出るね」 そういえば携帯について説明していなかったと気づいたが、特に警戒された様子はなかった。 画面に表示された名は、ジェレミア・ゴットバルトだ。 「はい、もしも――」 電話に出た途端、ジェレミアの剣幕に圧倒されてしまった。 しかし一拍遅れて彼の言っている意味を理解すると、スザクの背筋に冷たいものが走る。 ルルーシュと電話が繋がらない。 『街中で動く死体が大量に発生した』。 『そのことをルルーシュ様にお伝えしようとしたが、繋がらない』。 『私は既に九段下に向かっているので、君も早く来い』。 それだけ伝えると、ジェレミアはすぐに電話を切ってしまった。 動く死体、というのは意味が分からなかったが、ルルーシュの安否不明という一点で事態の深刻さを理解した。 スザクもルルーシュの番号を呼び出してみたが、確かに繋がらない。 ルルーシュの身に何かあっては、計画は終わりだ。 スザクは音を立てて椅子から立ち上がった。 「エィハ、――」 「何か来るわ」 事態を彼女に伝えようとして、しかしそれを遮られる。 エィハが見ているのは大通りの先――ヴァルが見ている景色。 人には見えない遙か遠くを見据えている。 同じようにスザクもエィハが見つめる方向に目を凝らすが、何かが蠢いている、以上のことは分からない。 視力には自信があったのだが、エィハたちには敵いそうになかった。 「動く死体が大量に現れた、って知り合いが……」 「多分、還り人よ。 向こうから来てるけど、誰か戦ってるみたい」 「一人で?」 「ええ」 還り人とは「起き上がった」死者のことであり、その多くが人を襲うのだという。 そこまで聞いて、スザクは決意を固める。 ルルーシュを捜しにいく前に、やるべきことができてしまった。 「……エィハ、安全な所に逃げられるかい?」 「ヴァルがいる所が、安全な所よ。 あなたはどうするの?」 「その人を助けにいく」 エィハが目を見張る。 それに構わず、スザクは『鍵』を握り締めた。 「ここでお別れだ、エィハ。 こんなことを言うのは変かも知れないけど、気をつけて」 向かうのは「還り人」がいるという方角ではなく、スザクが初めに目を覚ました駐車場。 エィハを残し、スザクは走り出す。 ▽ ヴァルの背に乗って風を切る。 ごわごわとした毛並みと温かさを全身で感じる、いつも通りの感覚。 エィハとヴァルは必死で考えた「順番」に従って、再び爪と牙を振り上げた。 ヴァルの爪が還り人の手足を千切り、牙がその爛れた体を噛み砕く。 十把一絡げに、還り人たちをなぎ倒していく。 「おっ。手伝ってくれんのか嬢ちゃん」 そう気さくに話しかけてきたのは、たった一人で還り人の群れを相手にしていた大柄な男だ。 伸びっぱなしになった金髪を額に当てた布で纏めており、背丈はエィハの倍ほどもある。 棍一つで複数の還り人に対抗できるほどの実力者――否。 得物の一振りで整備された地面を叩き割るのを見るに、単に「鍛えている」の域を超えている。 そんな男が、エィハに対して豪快に笑った。 「がっはっは、面倒なことに巻き込まれたところにこいつらが来たもんだからよ! ちょいと相手してやろうと思ったらキリがねえんだ、これが。 街の連中は、逃げろっつっても聞きゃあしねえしよ!」 エィハはその雑談を半ば無視して還り人を狩る。 ヴァルが噛み潰し、踏み砕き、次の還り人を狙う。 「おーっ、すげぇなその白いの! 霊獣か?」 「ヴァル」 「ヴァルか、強いな!!」 男はヴァルの凶行やエィハの淡白な反応に不快感を示すでもなく、平然と笑っている。 エィハにはこの男の肉体の強靱さよりもその精神性こそが、人間離れしているように思えた。 「俺ぁ周の開国武成王、黄飛虎ってんだ」 「エィハ」 「よしエィハ、ここを切り抜けんぞ」 ヴァルと飛虎が、死体を死体へ還していく。 飛虎が言ったようにキリがないと、エィハがそう思い始めた頃。 エィハたちの頭上に影が差し込んだ。 『エィハ、そこを離れて!』 聞き覚えのある少年の声に、エィハが顔を上げる。 そして――硬直した。 〈喰らい姫〉が儀式の宣告をした時以上に、エィハは不意を打たれてしまった。 しかしすぐさま我に返り、ヴァルに方向転換させた。 飛虎の襟首をくわえ、ヴァルが飛ぶ。 空中に浮かぶのは鋼鉄の鎧。 「それ」は銃を構えていた。 しかし銃口から放たれたのはただの弾ではない、光の弾丸だ。 弾丸は還り人の群れの中心に着弾し、轟音を掻き鳴らす。 それだけで還り人たちは文字通り蒸発し、大通りにはクレーターができあがった。 「それ」がもたらした光景を見て、エィハは〈赤の竜〉に初めて出会ったオガニ火山での出来事を思い出す。 「エィハが一度殺された」、あの時。 狂乱した〈竜〉のブレスによって人は焼け、岩すらバターのように溶けた。 規模こそ比べものにならないが、「それ」の持つ力は〈竜〉に比肩し得る。 だから「それ」は「そう」なのだろう。 エィハは小さく、そばにいる飛虎の耳に届かないほどの声量で呟きを漏らした。 「そこにいたのね、〈竜殺し〉……」 ▽ KMF(ナイトメアフレーム)――人型自在装甲機と呼ばれる機動兵器。 人がコックピットに乗り込んで操縦する、鋼鉄の鎧の総称である。 スザクの切り札であるランスロット・アルビオンはその中でも、技術の粋を詰め込んだ最新鋭のものだ。 ダモクレス戦役で爆発四散したはずのこの機体が、何故完璧な状態で用意されていたのかまでは分からなかった。 スザクはランスロットを降り、還り人と戦っていた男に会いに行く。 途中、手伝ってくれたエィハに礼を言ったのだが、考えごとをしていたようで返事はなかった。 「ばっはっは!!! いやー、エィハも兄ちゃんも、仙道でもねぇのに強ぇな!!」 黄飛虎と名乗った男は、スザクの背をばしばしと叩いた。 初めて見たというKMFにも物怖じしない豪快な人物だ。 そんな彼を見ていて、スザクは「父親」というものを思い出しそうになる。 しかし自分にその資格はないと、感傷に重石をつけて、心の底に沈めて蓋をした。 「無事で何よりです。 だけど……すみません、自分は友人を捜しに行かないと……」 「それなら俺も付き合うぜ!」 飛虎が堂々と己の胸を叩く。 殺し合いの最中だというのに、スザクを疑うという発想はないようだ。 そのお陰でスザクの方も、飛虎を疑う気は失せてしまっていた。 とはいえランスロットは一人乗りであり、スザクは答えに窮した。 そこに、意外な声がかかる。 「ヴァルの背中に乗ればいい」 助け船を出したのはエィハだった。 スザクが飛虎と話している間、彼女はずっとランスロットを観察していたようだ。 「狭いんでしょう? あの、乗り物」 「うん……ランスロットっていうんだ。 確かに、一人乗りだ」 「あなたにしか操縦できないの?」 「そうだよ」 「…………そう」 エィハの申し出はありがたいものだった。 状況が最終的にどうなるかは不透明だが、今のうちは仲間を作っておいた方がいい。 そして飛虎と同行するなら、エィハとヴァルがいてくれた方が都合がいい。 しかし、疑問が残る。 そもそもエィハが何故飛虎を助けたのかも分からず、スザクは問う。 「どうして、僕に付き合ってくれるんだい?」 「付き合いたいと思ったから」 一瞬で嘘と分かるような台詞を、エィハは眉一つ動かさずに口にした。 短い間ではあるものの、エィハと話していて分かったことがある。 彼女は隠し事が下手だ。 隠している内容は決して言わないが、隠し事をしているというそれ自体は隠せない。 今もそうだ。 何かを隠していて、そして何を隠しているのかは言うつもりがない。 ただ、何かしらの打算によって動いているのは確かだ。 そこまで分かった上で、スザクは受け入れることにした。 ここで突き放しても、お互いの危険が増えるだけだろう。 「……分かった。 エィハ、これからもよろしく。 飛虎さんも」 飛虎はともかく、エィハからは目を離さない方がいい。 スザクはそのことを肝に銘じた。 ▽ エィハには目的がある。 忌ブキを王にするという確固たる目的が。 そのためには今すぐにでも十五人を殺し、忌ブキを守らなければならない。 だが、それだけでは足りない。 エィハのもう一つの目的のためには“順番”を守る必要がある。 目的を果たすための条件そのものは、シンプルではあった。 ――〈竜殺し〉を全員殺す。 ――その後で〈竜〉を殺す。 直接でもいい、間接でもいい、事故でもいい、順番通りに〈竜殺し〉と〈竜〉が死ねばいい。 〈喰らい姫〉から教わったその順番を守るために、そして同時に忌ブキを死なせないために、エィハは動いていた。 エィハには〈竜殺し〉を見分けられるが、かといって〈竜殺し〉を見つけた端から殺していけばいいというわけでもない。 強力な能力を持つ〈竜殺し〉の手を借りなければ、更に強大な〈赤の竜〉を殺すのは難しいからだ。 〈竜殺し〉たちを殺して〈竜殺し〉でない者たちだけで〈赤の竜〉に挑んでも、〈竜〉を殺せなければ意味がない。 最も理想的なのが、〈竜殺し〉ではなく、それでいて強力な仲間を見つけることだ。 逆にそれができないのなら〈竜殺し〉と〈竜〉が衝突するように仕向け、互いに弱ったところを襲うといった手間が必要になる。 確実に順番を守るにはどうすればいいのか、エィハは悩んでいた。 初めにエィハがスザクを襲ったのにも、この順番が関わっている。 彼は〈竜殺し〉ではなかったが、〈竜〉討伐の仲間とするには力不足に思えたのだ。 それに忌ブキを最後の五人に残すために、殺せる相手は殺しておいた方がいいという判断があった。 その後スザクと協力する方針へ変えたのは、彼が戦力の保持をほのめかしたからだ。 〈竜殺し〉ではない、かつ信用できる戦力が手に入るとすれば願ってもない。 飛虎を助けたのも、そのスザクに恩を売るためだった。 そうして、エィハは常に“順番”に従って行動していた。 必死に考えて、考えて、最善を選んできたつもりだった。 しかしランスロットの出現が全てを狂わせた。 婁震戒が持つ剣は〈竜殺し〉だ。 無機物が〈竜殺し〉となる可能性を、エィハは知っていた。 それでもスザクが〈竜殺し〉ではないと分かった時点で、どこかで思考停止してしまっていたのだ。 ランスロットは〈竜殺し〉。 〈竜〉の力を受け継ぐ資格を持つ器。 ランスロットを破壊しなければ、エィハの目的は果たせない。 この鋼鉄の鎧を、ヴァルの爪では突破できない。 またスザクを殺すだけではランスロットを破壊したことにはならない。 これを壊すにはどうすればいいのか。 誰を殺せばいいのか。 誰から殺せばいいのか。 先を歩くスザクの背を見つめながら、エィハは考え続ける。 大切な、友達のために。 【一日目昼/品川】 【枢木スザク@コードギアス】 [所持品]ランスロット・アルビオン [状態]健康 [その他] ランスロットは〈竜殺し〉 【黄飛虎@封神演義】 [所持品]棍 [状態]健康 [その他] 〈竜殺し〉ではない 【エィハ@レッドドラゴン】 [所持品]短剣 [状態]健康(還り人) [その他] 特記事項なし Back 還り人の都 Next 朱理は紅蓮の野に立つ GAME START エィハ 013 竜殺しを探して 枢木スザク 黄飛虎
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混沌戦争 ◆Wv2FAxNIf. 「どうしよう……メリルがいない!!」 往来の真ん中で、大真面目に、その青年は叫んでいた。 端正な容貌を持った金髪碧眼の若者だ。 情けない声を上げてはいるが、身を包むのは物々しい漆黒の甲冑。 そしてそれを飾る赤青二色の布地、随所にあしらわれた紋章、そのどれもが彼のドナティア騎士という身分を示している。 より正確にいえば、神聖ドナティア帝国の黒竜騎士。 強大な軍事国家の中でも最強の戦力と謡われる黒竜騎士団、その末席に名を連ねるのがこの青年――スァロゥ・クラツヴァーリである。 一騎当千の能力と絶大なカリスマをもって部隊を率いる騎士――それが黒竜騎士という存在だ。 〈赤の竜〉と同格の存在〈黒の竜〉と契約した者たちであり、三十名のみという精鋭中の精鋭である。 だがスアローはひどく風変わりな騎士だった。 人通りの多い町中で、人目も気にせず狼狽するその姿は、黒竜騎士に憧れる人々の夢を一瞬にして粉砕するに違いない。 だがスアローは深刻な問題に直面しているのだ。 「どうしようこの状況、僕一人でどうにかなるとは思えない……! しかも婁さんまでいるじゃ――あっ」 スアローが手にしていた名簿に目を通したところで、「名簿が崩れ落ちた」。 自ら破ったわけではない。 ただそれが紙の寿命だったとでもいうように自然と、スアローの手から細かな紙片となって風に流されていく。 「あっちゃんこー……」 困り果てたように――だがこうなることを知っていたように諦めた表情で、スアローは名簿の残骸を見送った。 『粉砕』の呪い。 生まれながらにして付きまとう、スアローを蝕むもの。 スアローが手にしたものは例外なく、その一回で破壊される。 食器も、本も、釜も、触れればそのどれもが悲鳴を上げるように軋み、壊れてしまう。 顔以外で唯一鎧に覆われていない両腕は、その能力をそのまま示したかのようにどす黒く染まっている。 この理不尽な力を呪いと呼ばずして、何と呼ぶのか。 つまりスアローは一人では何もできないのである。 着替えも、飲食も、財産の管理も。 従者であるメリル・シャーベットの献身的なサポートがあってようやく人並みの生活を送れているのだ。 たった一人でこの儀式に巻き込まれたスアローが頭を抱えるのも、致し方ないことだった。 「どうする、このままじゃ僕は食事の度に犬食いする羽目に……! 水も飲めない、そもそも財布がない!!」 そうしてひとしきり騒いだ後、大仰に溜息を吐き、のろのろと歩き出す。 嘆いたところで、メリルは現れないのだ。 「……うん、とりあえず忌ブキさんとエィハさんを探そう。 多分、少しは協力してもらえる……かも知れない」 名簿に記載されていた二人の名前を挙げ、スアローは一人で何度も頷く。 忌ブキとエィハは知り合いではあるのだが、スアローとは微妙な関係を保っている。 かといって他に頼れる相手もいない。 他に名簿にあったのは知らない名前ばかりで、残るもう一人の知り合いに関しては論外だった。 少し時間をおくと落ち着きを取り戻し、メリルの不在についても諦めがついた。 そしていないものは仕方がないと、スアローはそのまま街の散策を始めたのであった。 知り合いの暗殺者が参加しているということもあって警戒ながら進んでいたのだが、緊張は次第に緩んでいった。 何せ、目新しいものに満ち溢れた街だ。 ドナティア本国すら及ばないほどの賑わいを見せる都市の存在など、スアローは想像したこともなかった。 しかしくつろぎ始めてはいるものの、街全体の違和感に関心がないわけではない。 (『夢』……ねぇ) 〈喰らい姫〉の説明を反芻しながら、思い出す。 数日前、スアローは彼女から手紙を受け取った。 手紙の中で〈赤の竜〉と縁深き者、と名乗っていた彼女。 そしてニル・カムイを蹂躙する〈赤の竜〉について、夢のようなもの――と説明していたのだ。 夢、故に討伐することはあたわない。 本体を目覚めさせたくば、時代の移り変わりに浮かび上がる〈契りの城〉に来い――と。 その手紙を受けて、スアローはドナティア軍とともに指定された地へ向かっていた。 この儀式では少々のルール変更があったが、「〈契りの城〉で〈竜〉の本体を殺す」という部分は変わりないようだ。 (ニル・カムイで暴れる〈竜〉も、この土地も、住んでいる人々も、全部夢……。 それなら、この夢を見ているのも〈赤の竜〉なのかな) 〈契りの城〉で微睡む〈竜〉に思いを馳せ、スアローは空を見やる。 作りものであろうその空は、普段見る景色と「何ら変わらない」。 脆い。 今にも崩れ落ちそうだ。 もっともそれは空に限った話ではなく――スアローの目には何もかもが、儚いものにしか見えないのだが。 そうしてほどなくして、街全体が還り人の軍勢に飲み込まれた。 ▽ 聞仲はその場に留まり、忌ブキと話を続けていた。 大きな通りが交差した中心で、それぞれの通りの数百メートル先は死体――忌ブキが言う、還り人たちによって塞がれている。 そこに不可視の壁があるかのように、彼らは近寄ってこない。 聞仲と忌ブキはそんな彼らを無視して会話しているのだった。 聞仲が新たに課した条件を忌ブキが飲んだことで話は纏まり、約束通り忌ブキから情報を得ているところだ。 「さて……」 その聞仲が、忌ブキの話を中断させた。 数十分にわたって動きのなかった還り人たちが、再び活発に蠢き出したためだ。 聞仲が警戒を強めるものの、還り人たちの意識は聞仲や忌ブキには向いていない様子だった。 群れに遮られて見えない大通りの先で、何かが起きているらしい。 「黒麒麟」 『お任せ下さい、聞仲様』 傍に控えていた霊獣は聞仲が詳細な指示をするまでもなく、忌ブキの盾となる位置に移動した。 何か来る。 気配を察して、聞仲はその方角に目を凝らす。 そして――還り人たちが吹き飛ばされた。 胴体や手足が千切れ、紙のように軽々と宙を舞う。 そうして拓けた道から一人の青年が現れたのだった。 「おっと、ここかな?」 重々しい漆黒の鎧に身を包んだ、金髪の青年だった。 だが目を見張るべきは鎧ではなく背中の、腰より少し低い位置に提げられた剣の方だ。 十本にもなる剣を革ベルトで束ねており、鞘の先端から剣の柄にかけて扇のように広がって見える。 その重量をものともせず、還り人の群れを軽々と踏破してきた――それだけで、人間離れした実力が窺えた。 そしてその青年の異質さを何よりも物語るのは、青年が手にしてた剣の末路。 今しがた還り人たちに向かって振るった剣が、根本から砕け散った。 自然と――不自然なまでに自然と『粉砕』されたのだ。 彼が仙道であるかないかなど些末な問題であり、聞仲は既に禁鞭に手を伸ばしていた。 しかし当の青年はといえば、脳天気な笑顔で聞仲に向かって手を振っていた。 「おーい、そこの人ー」 聞仲が特に反応せずにいると、嬉しそうに小走りで駆け寄ってきた。 およそ「殺し合え」と言われたばかりとは思えない、人のやる気を削ぐ優男である。 青年はそうして聞仲の前までやってきて、はにかみながら事情を話し出した。 「いやー、話ができそうな人に会えてよかった! さっきこっちで凄い音がしたから、きっと誰かいると思ったんです。 僕はドナティアの」 「スアロー・クラツヴァーリだったか」 「そうそう……あっれー、僕ってそんなに有名人? それともどこかでお会いしましたっけ?」 この状況で名を言い当てられても、やはり軽い調子だった。 聞仲はこれ以上の会話は不毛と打ち切ろうとしたが、聞仲に代わって応える声が上がる。 「僕が、教えました」 黒麒麟の陰にいた忌ブキが進み出る。 それを見たスアローは表情を一層明るくした。 「忌ブキさん! 無事でよかった、こんなに早く会えるなんて!」 再会を喜ぶスアローとは対照的に、忌ブキの表情は暗い。 そのことに気づいているのかいないのか、スアローは相変わらず親しげに言葉を投げかける。 「この人は知り合いなのかい? 知ってると思うけど僕は真面目で堅そうな人が苦手でね、できれば忌ブキさんからも何か――」 「スアローさん」 忌ブキの真剣な声に、スアローの喋りがぴたりと止まる。 人なつこい笑みは、苦い笑いに代わったのだった。 「僕は……革命軍の王です」 「うん、禍グラバさんから聞いてるよ。 君がそう決断したっていうなら、それはそれでいいと思う」 先程までの無駄に明るい調子は故意のものだったようで、スアローは落ち着いた様子で頷いている。 忌ブキの言う「革命」の意味を知った上での言だとすれば、冷静というより淡白ですらあった。 柔らかい雰囲気を纏うのにどこか冷め切っていて、掴みどころがない。 それが、聞仲から見たスアローの印象だった。 「僕はニル・カムイを変える為に、契り子になります」 「ってことは、君は〈赤の竜〉に会うんだね。 そうなると――」 「遠慮は無用、ということだ」 今度は聞仲が二人の会話に割って入る。 忌ブキの知り合いであっても、聞仲がやるべきことは変わらない。 「待った待った!! せめてもう少し話し合いを!」 「何故私がこの場に留まっていたと思う? ……陛下をお捜しする前に、間引くためだ」 黒麒麟とともに上空から確認した限り、この東京という土地はそれなりの広さがある。 その中から二十人の参加者を捜し出すのは至難。 よって聞仲は、参加者たちが自ら姿を見せるよう網を張ったのだった。 忌ブキを助ける際、禁鞭の攻撃を必要以上に広範囲に向けたのもそのためである。 まだスアローが何事か叫んでいたが、聞仲は既に聞く耳を持たない。 禁鞭が振り下ろされ、この新宿に二度目の轟音が響き渡った。 ▽ 忌ブキは黒麒麟の足にしがみつき、何とか吹き飛ばされずに済んだ。 額から生えた角が、熱を帯びているのが分かる。 皇統種が持つ恩恵《魔素の勲》。 空気中の魔素を操り、聞仲に優位な場を作り出しているからだ。 「問題なかったのだろう?」 「…………はい」 祝ブキは聞仲の問いに答えながら、激しい風と土埃に目を瞬かせる。 そして聞仲の背中を――その先の、スアローが立っていた場所を見つめる。 妙な人物ではあったが、忌ブキやエィハに対していつも気遣っていた黒竜騎士。 忌ブキが悩んだ時、相談を持ちかけたこともある。 嫌いではなかった、むしろ皇統種やドナティア騎士という身分がなければもっと話せていたのではないかと思う。 だが忌ブキは彼の情報を、聞仲に渡した。 臨戦態勢に入った聞仲を止めようとはせず、むしろその背を押した。 聞仲が出した条件のうちの一つに、「保護を適用するのは忌ブキのみ」というものがある。 聞仲には、参加者二十名のうち知り合いが三名いるのだという。 そして聞仲は彼らを生還させるつもりでいる。 それは聞仲を含めれば四名分、〈赤の竜〉に謁見するための切符が既に指定されているようなものだ。 残る一つの切符が忌ブキのものになる。 つまり忌ブキが「他に生き残らせたい人がいる」と言ったところで、聞き入れられることはないのだ。 その条件を、忌ブキは承諾した。 エィハも、スアローも、婁震戒も――大切な友達も、仲間だった人たちも。 彼らを殺しても構わない、そして自分だけは助けて欲しいと。 自分が生き残るために、恥も外聞もない取引をした。 そうしてでも忌ブキは生き残る必要があった。 だからせめて、スアローの最期からは目を逸らすまいとしていたのだ。 もっとも――少なくとも今の一撃だけでスアローが死ぬとも、忌ブキには思えなかったのだが。 「いやー……参った、これは本格的に参った。 流石に僕もお手上げかも知れない」 砂煙の中から、緊張感の薄い聞き慣れた声がする。 視界が晴れるとそこにはスアローの姿があった。 何事もなかったかのように無傷のまま、まだ剣も手にしていない。 それを見て安堵してしまっている自分に気づき、忌ブキはかぶりを振ってその考えを追い払った。 そんな忌ブキの複雑な心境を知ってか知らずか、スアローは平然と会話を再開するのだった。 「一応もう一度確認しますけど、他の方法を採るつもりはありませんか? 僕としても〈赤の竜〉には会いたい。 でも五人と言わず二十人全員で〈契りの城〉を目指せないか、少し模索してもいいんじゃないかなって」 「必要ない。 そんな不確かな可能性に懸ける時間も惜しい」 スアローが持ちかける交渉に、聞仲が応じる様子はない。 忌ブキの時と同様、聞仲の優先順位は常に揺るがない。 「スアロー・クラツヴァーリ、おまえはここで死ね。 我が子……殷の永遠の繁栄のために」 そこで――スアローが動きを止めた。 目を何度も瞬かせ、聞仲をまじまじと眺めている。 喜んでいるような、驚いているような。 不思議なものを見るような目を、向けている。 「永遠?」 スアローのその呟きを聞いて、忌ブキは思い出す。 婁震戒が混成調査隊を離反した後、シンバ砦でスアローと話した時の、彼の言葉を。 ――率直に言って、物には愛着が持てないかな。 ――なにしろ、僕は一度も物を所有したことがない。 スプーン一つ、どころか石ころ一つですら、彼は手にできない。 手にしたものは分け隔てなく、全て壊れてしまうから。 ――僕はそういうたった一回で壊れてしまう物に愛着は持てないが、同時に愛してはいる。 ――永遠に残るから愛しているのではなく、壊れてしまうからこそ、僕はそれを惜しんでいる。 きっとスアローは、「永遠」というものを誰よりも―― 「今、永遠って言ったのかい?」 スアローが聞仲に対し、再度問う。 その唇は引きつるような、歪んだ笑みをつくっていた。 ▽ 絶体絶命。 そんな状況で、スアローは笑っていた。 「今、永遠って言ったのかい?」 「……それが、何か?」 対する聞仲は憤怒のような、嫌悪のような表情を浮かべていた。 今、スアローは彼の心の踏み込むべきでない箇所へ踏み込もうとしている。 そのことを、スアロー自身が気づいていないわけではない。 それでも踏み込まずにいられないのだ。 「〈喰らい姫〉が見せてくれたけど、殷って国……というか王朝だったと思うんだ。 王朝って滅んだり滅ぼされたり、新しく興ったりするものだよね?」 「殷は滅びない。私が滅ぼさせない。 それだけの話だ」 「仮にあなたが殷を守り続けたとして、それでもあなたにだって寿命はあるはずだ。 亡くなった後まで守る気なのかい?」 「私は道士だ、人間よりも長く生きる。 それまでに私がいなくなっても存続可能なシステムを構築する必要があるだろう」 「どんなにあなたが頑張っても、星にだって寿命が来る。 星がなくなったら王朝どころの話じゃないんじゃないか?」 「くどいッ!!!!!!」 聞仲の額が縦に割れ、第三の目が開く。 凄まじい怒気とともに再び砂塵が舞い上がり、地面が揺れる。 スアローはその怒りに圧倒されるも、張り付いた笑みは消えなかった。 「私は殷を守る。星が消えるというなら星も守ろう。 殷は永遠に滅びない。 おまえは私の揚げ足取りをしたいのか?」 「違う、そうじゃない。 僕はあなたのことをもっと知りたくなったんだ」 聞仲が怒るだろうと予想しつつ言ったのは確かだが、決して怒らせたかったわけではない。 スアローが聞仲に抱く感情は悪意でも敵意でもなく――尊敬であり、羨望だ。 「僕は、物に愛着がない。執着というものもできない。 だからあなたみたいに一つのものに……それも王朝なんて形のないものにこだわるあなたに、憧れる」 はじめて婁震戒と出会った時と同じだった。 剣を命よりも大切なものと言い切った婁を見て、そんな彼を見ていればその感覚を学習できるのではと期待した。 結局分からないまま彼と袂を分かったが、嫉妬にすら似た感情は今も残っている。 「そこまで極端に打ち込む人なんて、婁さんぐらいかと思ってたんだ。 だからあなたの言葉に驚いたし、僕をここに呼んだ〈喰らい姫〉に感謝したくなった……ちょっとだけね」 婁震戒に打ち明けたその時まで、誰にも告げずに内側に秘め続けていた空白。 スアローの胸の中心にある、がらんどう。 「執着を知りたい」などと。 婁震戒に出会うまで、他人にそんな話をする日が来ると思っていなかった。 またこうして口にする日が来るとも思っていなかった。 聞仲という存在はスアローに対し、婁に出会った時に近い衝撃をもたらしたのだ。 「愛着も執着も、こだわりもないか。 おまえは私にとってどうあっても相容れない相手のようだ」 「……そうなんだよねぇ」 スアローにとって相容れる相手などいない。 聞仲や婁に限った話ではなく、友達も、気の合う相手もいない。 「物を所有する」という当たり前の経験が欠落しているスアローは、他の誰とも感覚を共有できない。 そこにいるだけで、呼吸しているだけで、こだわりや信念を持った者の神経を逆撫でて苛立たせてしまう。 混成調査隊の一員として過ごした日々は、スアローに少なくない変化をもたらした。 このどうしようもない呪いとも、以前よりも少しだけ、折り合いがつけられたように思う。 けれどこうして執着を知る者と対峙すると、改めて思い知らされる。 スァロゥ・クラツヴァーリはいつでも、どこまで行っても、たった一人なのだと。 「ここで最初に迎え討つ相手がおまえだったことは、私にとって幸運だったのかも知れん。 真っ先に、消しておく必要がある……!」 「そうだよねー、結局こうなる気はしてた! 〈喰らい姫〉への感謝は撤回!」 言うと同時に、スアローが左足の契約印を解放する。 〈黒の竜〉に与えられた傷。 契約した時点でスアローの身体能力はおよそ三倍に跳ね上がったが、契約印を解放すれば更に三倍。 左足の火箸が突き刺さるような痛みと引き替えに、元の十倍近い力を発揮できるようになる。 契約印解放後のスアローは、もはやヒトガタの〈竜〉に等しい。 契約印を解放する一呼吸の間に、既に聞仲の鞭が迫ってた。 回避の目はなく、スアローは《黒の帳》を展開する。 〈黒の竜〉に与えられた恩恵の一つであり、自身の生体魔素を消費して自分の周囲に頑強な障壁を作る力だ。 聞仲の初撃を防いだのもこの障壁であり、契約印を解放した今なら黒竜騎士団団長の一撃でも防ぐことができる。 鞭と《黒の帳》がぶつかり合う。 拮抗し、そして、鞭が障壁を破ってスアローの頬を掠めた。 「えっ」 聞仲の最初の一撃は様子見の、挨拶代わりのようなものだったのだろう。 だが聞仲がほんの少しやる気を見せれば、契約印解放後の《黒の帳》すら易々と突破してしまう。 それを受けてスアローは瞬時に判断した。 無理、と。 《黒の帳》は強力な盾ではあるが、スアローの生体魔素を必要とする。 何度も展開できるようなものではなく、防戦に回ればあっという間に魔素の枯渇を招くだろう。 故にスアローは前へと踏み出した。 腰のテンズソードホルダーに換装された十本の剣、うち一本は既に還り人相手に使ってしまっている。 残る九本全てを消耗する覚悟で、スアローは聞仲に挑みかかる。 スアローが手にした全てのものは『粉砕』されるが、それだけではない。 壊れる瞬間、そのものが生きるはずだった時間、年月の全てを最大限に発揮する。 そのものが剣であれば、一層の破壊力を絞り出す。 そこに〈黒の竜〉との契約が加わることで、城砦すら打ち崩すほどの威力をもたらすのだ。 「当たれ……っ!」 高く掲げて振り下ろした一撃は聞仲に躱され、代わりに地面を穿って地割れを引き起こす。 同時に剣が砕け散り、いつもの虚無感と息苦しさがスアローの胸に迫る。 だがスアローは止まらずに新たな剣を抜き放った。 「次!」 スアローは壊れてしまうものを惜しみ、愛している。 だが壊れてしまったものに対する感慨は持たない。 たった今、己の呪いで破壊した剣も同じことで、既に意識の内にはない。 一振り、また一振りと、スアローが振るった剣はその風圧だけで地面や周囲の建物を砕くが、聞仲には届かない。 聞仲は鞭の破壊力にものを言わせるだけの人物ではなく、そもそもの膂力が並外れているのだ。 余裕をもって、子どもをあしらうように避けている。 五本目の剣を抜く。 振り抜き始めた時点で、聞仲がスアローの間合いから跳び退って逃れるのが見えた。 更に踏み込んでも、なお足りない距離は剣一本分。 これまでよりはいくらか接近できているが、このままでは掠りもしない。 だが――届くのだ。 「《黒の刃》を乗せる!!」 左足から噴き上がった闇の奔流が剣にまとわり、質量を増大させる。 螺旋に渦巻いた黒い魔素が空間を浸食し、掻き毟る。 漆黒に染まった剣は巨人が振るうものと見紛うほどの大きさにまで膨れ上がった。 スアローが踏みしめた地盤はその重量によって蜘蛛の巣のようにひび割れる。 「――――――」 踏み込み。 腰の捻り。 腕の角度。 全てが噛み合って、スアローは決定的成功(クリティカル)を確信する。 聞仲が腕を上げて防御しているのが目に入ったが、これが生身の腕で防げるような一撃にならないことは明白だった。 剣を振り抜く瞬間、胸に去来するのは。 やはり、虚しさだけだった。 ▽ まるでこの世の終わりのようだと、忌ブキには思えた。 破壊の規模だけなら〈赤の竜〉に破壊されたシュカの街の方が酷かった。 だがここで戦っているのは、たった二人。 黒竜騎士と道士が衝突しただけで、かろうじて原型を留めていた建造物も崩れ、舗装された道路は無惨にめくれ上がっている。 忌ブキが黒麒麟の影に隠れていなければ、飛んできた瓦礫が当たっただけで死んでいただろう。 忌ブキにとっては絶望的なまでに、遠い。 道士である聞仲も、それと渡り合うスアローも――同じ人間とは思えないほどに、超えがたい隔たりを感じた。 しかしそんな戦いにも終わりが近づいている。 スアローの刃が聞仲を捉えるところまでは、忌ブキにも見えていた。 だが聞仲が吹き飛んで建物の瓦礫に叩き込まれた後は、土煙に阻まれてしまっている。 「結局、どうなって……」 それでも忌ブキには分かっていた。 聞仲が倒れたのか否か。 黒麒麟が動こうとしない時点で――動くまでもないと判断している時点で――聞仲は健在なのだ。 「勘弁して欲しいなぁ……。 あなただったら、一人で〈赤の竜〉を倒せちゃうんじゃないか?」 疲れたように苦笑するスアローに、砂塵の内側から禁鞭が襲いかかった。 長い一本の鞭のはずなのに、その速度のあまり忌ブキの目からは無数に枝分かれして見える。 禁鞭を叩きつけられたスアローは、その目前に発生させた黒い障壁ごと弾き飛ばされた。 「忘れていた肉体的な痛みを思い出した。 少々、見くびっていたようだ」 そう口にする聞仲の腕から血が滴り落ちるが、禁鞭を振るうのに支障はないようだ。 ぞっ、と忌ブキの背筋に寒気が走る。 かつて契約印を解放したスアローが岩巨人を両断する姿を、忌ブキは目の当たりにしていた。 空をも斬り裂くような、痛烈な一撃。 それが聞仲にはまるで通用していない。 自分がどんな相手と手を組んだのか――組んでしまったのか。 それを改めて見せつけられた。 「これで――」 『聞仲様!!!』 突然、それまで静観を続けていた黒麒麟が動いた。 黒い巨体が浮き上がって聞仲の頭上に位置取り、同時に金属音が響いた。 空から降り注いだ無数の閃光が、黒麒麟の装甲に遮られて弾かれる。 そして一人の金髪の少年が、黒麒麟よりも更に高い位置から落下してきた。 その少年は猫のようにしなやかな身のこなしで着地し、悔しそうな声を漏らす。 「かってー! 何だこいつ!!」 言いながら、聞仲と倒れたスアローの間に立つ少年。 唐突に乱入してきた彼はスアローを助けるつもりなのだと、忌ブキは遅れて理解した。 「おい、あんた。 まだ動けるんだろ?」 「ひょっとして僕に言ってる?」 「他に誰がいるんだよ!」 スアローが暢気な返事をしながら立ち上がった。 障壁で禁鞭を防いでいたためか、こちらも大きな怪我はないらしい。 そして少年は、おもむろにスアローの手首を掴んだ。 「今回はカンベンしてやる!」 スアローの手を引き、少年が脱兎のごとく逃げていく。 聞仲の怒りが膨れ上がるのが、離れた位置から見ている忌ブキにも伝わった。 「逃がすと思うか!?」 禁鞭が振り下ろされる。 度重なる衝撃で脆くなっていた地盤が崩れて陥没し、スアローら二人が立っていた場所に大穴を作った。 だがそこに二人の姿は既になく、忌ブキには小さくなっていく背中だけが見えた。 ▽ 『……さしでがましい真似をしました、聞仲様』 「構わん」 『今ならまだ追いつけるかと』 「いや、今回はこれでいい。 私も冷静さを欠いた」 黒麒麟と会話しながら、聞仲はスアローたちが逃れた方角を見遣る。 スアローは強い相手ではあった。 仙道と比べても遜色なく、〈赤の竜〉と同格の〈黒の竜〉から力を得ているという話にも頷ける。 とはいえ、感情的になってまで固執するべき相手でもなかったはずだ。 執着がない。 それを当たり前のことのように言う男。 生かしておくだけで、これまで大切にしてきたものに泥を塗られたような気分になる。 おどけた態度こそ太公望に近いが、その性質は真逆と言ってもいい。 「……次はない」 それだけ呟き、聞仲は視線を外す。 スアローのことをこれ以上思い出すまいとするように、次にとるべき行動へと思考を移した。 【一日目昼/新宿】 【忌ブキ@レッドドラゴン】 [所持品]鞭、〈竜の爪〉 [状態]健康(現象魔術を数度使用) [その他] タタラの本名は聞いていません。 聞仲の生殺与奪に口出ししない。 【聞仲@封神演義】 [所持品]禁鞭、黒麒麟 [状態]腕に軽傷 [その他] 情報と引き換えに忌ブキを保護する。 ▽ ティーダと名乗った少年とともに走り続けたスアローは、還り人がいない地域まで逃れて一息ついた。 黒い魔物から聞仲と呼ばれていた彼は、追ってきてはいないようだった。 「助かったー、君は命の恩人だ! あの人から逃げられるとは思ってなかったよ」 「見逃された、って感じだったけどな……」 ティーダの逃走は確かにそれに特化した技術ではあるが、誰にでも通用するわけではないという。 今も追いすがってくる様子がないことからも、ティーダの言うように「見逃された」というのが正しいのだろう。 改めて二人きりになり、スアローはティーダの姿を頭の頂点から爪先まで観察する。 少し日焼けした、金髪の少年。 こんな状況でも表情や声は明るく、溌剌としている。 左腕こそ防具で固めているものの、残る手足は肌を晒した身軽なものだ。 逃げる途中に襲いかかってきた還り人の群れを片手剣一つで難なく撃退していたところから、戦い慣れているのが分かる。 聞仲に奇襲を仕掛けたぐらいなのだから、自分の力に自信もあるのだろう。 名前を名乗り、身分を伝え、相手が本当に信用できるのか探り合って。 そういう手順が必要になる場面だった。 しかしスアローには、そういった順番を無視してでも確かめねばならないことがある。 従者のメリルからどんなに渋い顔をされても直ることがない、スアローの悪癖のうちの一つである。 「一つ訊きたいんだけど、いいかな」 「なんスか?」 ティーダの歳は、見たところスアローよりも十ほど下だ。 既に少年と青年の狭間に差し掛かっているようだが、スアローは確認せずにはいられなかった。 「君は育っちゃう系? それとも育たない系?」 「はぁ?」 忌ブキにも、エィハにも、初めて会った子どもには例外なく使ってきた質問である。 毎回相手から怪訝な顔をされるが、スアローは特に気にしていない。 初めこそ、ティーダはわけが分からないといった表情を浮かべていた。 だが次第に真剣なものに変わり、明るかった顔は曇っていく。 そんなティーダの様子に「気づいてはいても関係なく」、スアローは答えを待った。 そしてティーダはスアローと目を合わせることなく、独り言のように呟いたのだった。 「俺は育っちゃったけど…………多分もう、育たない」 ティーダが苦々しく俯く。 故に、ティーダは見ていなかった。 スアロー自身も鏡を見ていたわけではないので、誰もスアローの表情を見ていなかった。 ティーダの返答を聞いたスアローの目は期待に溢れ――笑っていた。 【一日目昼/新宿北部】 【スアロー@レッドドラゴン】 [所持品]両手剣×4 [状態]軽傷 [その他] 〈竜殺し〉です。 【ティーダ@FFX】 [所持品]アルテマウェポン [状態]健康、オーバードライブ使用直後 [その他] 特記事項なし Back 殷の太師 Next The First Signature 005 殷の太師 忌ブキ - 聞仲 GAME START スアロー・クラツヴァーリ 014 スアロー・クラツヴァーリの場合 ティーダ
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殷の太師 ◆Wv2FAxNIf. もしもこれが“今”でなければ、別の道があっただろう。 十天君が裏切る前なら。 或いは黄飛虎が殷を離反する前なら。 他者に強要されて殺し合うという儀式自体を、彼のプライドが許さなかった。 “今”は、手段を選ばない。 殷があればいい。 殷さえあればいい。 殷だけがあればいい。 殷の為なら、弱者の血で手が汚れようとも構わない。 十天君の空間宝貝によって閉じ込められた四ヶ月間。 結局自力で脱出できなかったその期間のことは、記憶に新しい。 閉じ込められるという意味では今回も全く同じ仕打ちであり、それが一層の焦りを生んだ。 だから“今”の聞仲は、迷わない。 ▽ 砂塵が舞い、視界が悪くなった市街地でもう一度、鞭が空気を掻き回す。 それは軽く振るわれただけで辺りを縦横無尽に疾走し、風圧で土煙を吹き飛ばした。 スーパー宝貝が一つ、禁鞭によって破壊された市街の姿が露わになる。 被害の範囲は半径数百メートルに及び、建物の外壁には巨大な獣の爪で抉られたような傷が無数に刻まれている。 舗装された道路上に動く死体たちの姿はなく、血痕と肉片を残すばかりだった。 そんな地獄のような光景を作り出した張本人は、普段と変わらない険しい表情のまま、上空から街を見下ろしていた。 殷の太師、聞仲。 三百年にわたって王朝を見守ってきた、仙人界でも屈指の実力を持つ道士である。 儀式に参加する二十人の中に聞仲に及ぶ者はおらず、彼自身にもその自覚と自信があった。 その聞仲が、厄介だと心中で毒づく。 聞仲の視線の先にいるのは、禁鞭の射程を逃れた死体の群れである。 死体の群れは蠢くばかりで、聞仲が破壊した市街に入ってくることはなかった。 聞仲を警戒し、観察している。 知恵があり、意志がある。 闇雲に動き回っているだけに見えた死体たちはその実、明確に意志統一されていた。 加えて、一体一体は弱くとも、街全域から排除するには街そのものを潰す必要がある。 聞仲が仕える相手・紂王の所在が分からない以上、そのような大規模な破壊は望ましくない。 故に聞仲は、彼らを厄介と評したのであった。 実力では他を圧倒していても、一筋縄ではいきそうにない。 状況が膠着したのを見て、聞仲は死体の群れについて一旦捨て置くことにした。 別の問題に片をつけるべく、霊獣黒麒麟に命じて高度を下げる。 地上に待たせていた相手は少年ではあったが、最低限の礼儀として聞仲自ら地面に降り立った。 「もう一度問おう。 〈竜〉について知っていることを話せ。 話す気がないならそれもいいだろう」 答えないなら、或いは何も知らないなら、ここで殺す。 暗にそう示して、改めて少年を見下ろす。 白い頭巾に白い着物、そしてあの〈竜〉のように赤い瞳を持つ少年だった。 禁鞭の威力を間近で目にしたためか、震えている。 手足は触れれば折れそうなほどに細く、鍛えられているとはいえない。 死体の群れに襲われて殺されかけていたことからも、戦闘能力はほぼ皆無と見ていいだろう。 しかし世界の在り方を決めるような儀式に不釣り合い――とは、思わない。 仙道が扱うものとはまた別の力を、確かに感じさせる少年だった。 「あの……」 「聞仲。殷の太師だ」 「聞仲……さん。 僕は忌ブキっていいます。 その、ありがとうございました」 「……ふん。 おまえを助けようとしたのではない」 忌ブキを助けたのは、偏に彼の着物の色が紂王の正装のものと似通っていたからだ。 遠目からでも背格好の違いは見て取れたものの、紂王の身に万一のことがあってはならないと、禁鞭を振るったのだった。 「答えるのか、否か。 私には時間がない」 再度、忌ブキに返答を求める。 焦りがあった。 聞仲が、そして紂王が殷から切り離された今の状況は、考え得る限りで最悪のものだったからだ。 仙女妲己によって乱され滅びかけた殷は、聞仲の奮闘の甲斐もあって持ち直しつつある。 しかし聞仲と紂王が不在の今、敵国の周が動く。妲己が動く。 策士家の妲己に至っては、この儀式を裏で操っている可能性すらある。 国を空けている場合ではなく、一刻も早く殷に戻る必要があるのだ。 そのためなら相手が仙道でなかろうと、女子供であろうと、打ち据える覚悟はとうにできている。 対する忌ブキは聞仲に威圧され、震えが止まらなくなっているようだった。 だが膝を折ることはなく、逃げる気配もない。 退けば死ぬことは知っているらしい。 「……その前に教えて下さい。 聞仲さんは……ここに呼ばれた人たちを、殺せるんですか」 「可能だ」 もつれそうな舌で声を絞り出した忌ブキに対し、聞仲の返答は簡潔にして明瞭。 聞仲には明確な優先順位があり、第一としているのが殷である。 それよりも上か下かというだけの問いに、迷いは生じない。 「私は殷に帰還する。 そのために必要だというのなら、何でもしよう」 「〈竜〉の力は欲しくないんですか?」 「興味はない」 これもまた、明瞭。 聞仲にとって〈赤の竜〉は障害の一つでしかない。 「国の統治も邪魔者の排除も、私の力だけで事足りる。 だが〈竜〉が周の手に渡るようなら手を打たねばならん」 民は、時代は、歴史は、周に味方している。 それを承知の上で、聞仲は殷を存続させるべく動いている。 しかし周が世界を変えるほどの力を手にすれば、聞仲の手でも流れを止められなくなるだろう。 聞仲が危惧するのはその一点であり、殷に干渉さえされなければ、〈竜〉の力が何に使われようと構わなかった。 そうした聞仲の返答を得た忌ブキはしばし考える素振りを見せ、やがて改めて口を開いた。 「……僕は〈喰らい姫〉のことも〈赤の竜〉のことも知っています。 多分、呼び出された二十人の中で一番〈竜〉に近しい。 僕の皇統種としての能力も〈竜〉に関係しています」 「ならば――」 「条件が、あります」 言を遮られ、聞仲が眉を顰める。 不快というより、意外だった。 この少年に、自分を相手に交渉を持ちかけるだけの強かさがあるとは思っていなかったのだ。 もっとも、それだけ必死だったというだけなのかも知れないが。 「あなたになら、僕が知っていることを全部話したっていい。 力もあなたのためだけに使う。 その代わり――――」 ▽ 聞仲は黒龍騎士をも超える力を持っている。 犠牲を厭わない。 〈竜〉に固執しているわけでもない。 それらを確かめた上で、忌ブキは決心した。 彼しかいないと――そしてどの道、失敗すればここで死ぬしかないのだと。 「その代わり、僕を……守ってもらえませんか」 それは忌ブキが必死の思いで絞り出した条件だった。 聞仲にとって分のいい取引ではないことは気づいていたが、忌ブキは他に対価にできるものを持っていない。 危惧した通り、聞仲は表情を一層険しくした。 何とか説得できないかと、忌ブキは慌てて言葉を探す。 「僕は〈赤の竜〉に会わなくちゃならないんです! 今のニル・カムイを、僕たちの国を変えるにはこれしか――」 それが意図せずして、引き金を引いた。 聞仲の眉が吊り上がる。 怒りの原因自体は分からなくとも、怒らせてしまったことははっきりと分かった。 大地を震わせるほどの怒気が、忌ブキの肌に刺さる。 「理想を語るに足る実力もなく、他者の庇護に頼るか!」 何が彼の怒りの切っ掛けとなったのか、忌ブキには理解できなかった。 忌ブキは革命軍の王として動いてはいるが、自分の出自を知ったことすらここ数ヶ月のこと。 人と交渉するだけの知識も経験も、持ち合わせているはずがない。 起こるべくして起きた結果といえた。 「自分では〈竜〉のもとに行き着くことさえできない。 そんな未熟者が〈竜〉の力を得て、国を変えるだと?」 いつ鞭が振り降ろされてもおかしくない。 だが忌ブキが死ねば、ニル・カムイの革命は終わってしまう。 大国に踏みにじられたまま。 忌ブキに“熱”を伝えてくれた男に応えられず。 皇統種に夢を見た、つながれものの少年の死を無駄にして。 大切な友達にも、何もあげられない。 それでは駄目だと、嫌なのだと、忌ブキは顔を上げる。 「変えてみせます! ドナティアの人にも黄爛の人にも出ていってもらって、奴隷市場をなくして、それから……!」 「弱者が国を語るとは聞くに耐えんな……! 崑崙の連中よりもなお劣る!!」 そこまで言われて、忌ブキはようやく察した。 短い会話の中で聞仲が口にした、国。 恐らく聞仲は自国のために心を砕き、国を第一に考えて行動している。 だから忌ブキを許さなかったのだ。 他人に守ってもらおうとしたからではなく、そんな忌ブキが国を口にしたから、聞仲は激昂した。 国を語るには。 聞仲と同じ土俵に立つには。 忌ブキは幼く、非力だった。 「だけど……」 自分の弱さは、忌ブキ自身が誰よりも知っている。 忌ブキを信じて夢見ていた少年を、終わらせてやれなかったあの日のことを、忘れられるはずがない。 言われなくても分かっている。 既に思い知らされている。 「僕が自分の弱さを理由に逃げたら、本当に何も変えられない……!」 ニル・カムイを変えるための手段として、忌ブキは“革命”を選んだ。 大国の支配下となって穏便に「変えられていく」道ではなく、自分たちで自由を勝ち取る道。 数千、或いは数万の民の血を流しかねない道だ。 だが忌ブキは革命軍とともにその血の海に溺れてやると、そこから救えるだけの命を救ってみせると宣言した。 革命軍の士気を鼓舞して煽動したのは阿ギトでも、火を点けたのは忌ブキだ。 走り出してしまった以上、もう戻れない。 革命の火は燃え広がっている。 忌ブキだけ日常に戻れば、後にはただ血の海だけが残る。 そこから民の命を救おうとする者は誰もいない。 それを分かっているから、忌ブキはタタラの手を振り払ったのだ。 血を流さずに進もうとするタタラではなく、聞仲に助けを求めた。 「もう一度、お願いします……! 〈竜〉に会うまでだけでいいんです、僕を助けて下さい!!」 ▽ 聞仲は腕を組み、忌ブキを冷ややかに見下ろしていた。 聞仲には弱者の思いが分からない。 理解はできても、共感することは決してない。 政治を司る者として弱者の存在を慮ることはあれど、実際に弱者の側に立たされたことはないのだ。 仙道となる以前から、聞仲は努力を惜しまず優秀だった。 金鰲列島で修行を始めてからも成長は早く、今となっては全力で戦える相手を捜す方が骨が折れる。 「自分の力ではどうしようもないから他人を頼る」という発想がない。 故に、自国を立て直そうとしているという立場こそ近くとも、忌ブキとは決して相容れない。 他力本願の姿勢に苛立ちこそすれ、同情の余地すらない。 そもそもの「忌ブキを守る」という条件が不都合この上ないこともあって、聞仲の視線は冷える一方だった。 だが〈竜〉の情報という見返りを、聞仲は無視できなかった。 以前なら気に入らない相手との同盟など一蹴できただろう。 己のプライドを優先していられた。 今は――殷を失う焦りが勝る。 十天君の時のように何ヶ月も足踏みをしている場合ではない。 「こちらからも条件を付け加える。 従えるのなら、この契約を呑もう」 妥協を重ねた末の結論だった。 契約相手の在り方も、相手を一方的に守るという条件も、全てが聞仲にとって不愉快だった。 だが殷の存亡がかかったこの時に、個人的なプライドやこだわりに固執しているわけにはいかなかった。 弱者に対し一方的に仙道の力を振るうことも、相容れない相手と共闘することも、殷というただ一つの目的のために受け入れる。 そして重く息を吐き出し、黒い外套を翻して忌ブキに背を向けた。 「予め一つ、言っておく」 敢えて面倒な条件を呑んだのは殷のため。 馴れ合うためではなく、相互の理解も必要ない。 そのことを敢えて口にしておかなければ、この未熟な少年は察せられないだろう。 互いの立場を明確にするために、聞仲は告げる。 「私は誰も信じない」 【一日目昼/新宿】 【忌ブキ@レッドドラゴン】 [所持品]鞭、〈竜の爪〉 [状態]健康(現象魔術を数度使用) [その他] タタラの本名は聞いていません。 【聞仲@封神演義】 [所持品]禁鞭、黒麒麟 [状態]健康 [その他] 特記事項なし Back 国の真秀ろば Next 混沌戦争 000 OP――賽を投げる者 忌ブキ 006 混沌戦争 聞仲